あとがき

画題を求めて前後六回、二年近く外遊をくり返してきた。その時々に見た風景や、現地で聞いた珍しい話や失敗を、思い出の種にと「点景点描」と題して書き綴っているうちに四百時詰原稿用紙で千四、五百枚になってしまった。これでは一冊に収まらない。仕方なく『シルクロード点景』と『ヨーロッパ点描』の二冊に分け、まずシルクロード点景を出すことにした。
三千年も前のその昔、中国で織られた絹布がラクダの背にくくりつけられてはるばるローマまで運ばれると、光沢があって、軽く、すらりとしてスマートに見えるのでローマの貴婦人たちによろこばれ、彼女たちが先を争って買い求めたので、金と同じ目方で交換されたと言われている。
十九世紀のなかば、ドイツの地理学者、リヒトホーフェンは絹織物を運んだ街道をその著書に『シルクロード』(絹の道)と命名して紹介した。
シルクロードはまた絹のほかに、忠告で開発された紙や、二千五百年も前に造られたみごとなガラスの菓子器がある。ラクダを描いた螺鈿の琵琶のことは本文で触れた。また競走馬サラブレッドの先祖と言われる汗血馬も、この街道をパカパカと歩いて中国に来た。ペルシャ湾に採れた真珠や、象牙細工や宝石や、絨毯も、葡萄、ザクロ、インゲン、キュウリ、ゴマ、クルミなどの果物や野菜類も運ばれて来た。私はトルファンのバザールで貰ってきたクルミに穴を開けて紐を通し、根付にして珍重している。
だからシルクロードはまたペイパーロードであり、ガラスロードであり、東西文明の交易路でもあった。
私は若い頃、仏像の荘厳なまでに静かな、慈愛に満ちた美しさに魅せられて、毎年石仏を描いて中央の美術館に出品していたので、この旅行でも洛陽の龍門の石仏群をはじめ、折角小型高速ボートまで特約しながら砂嵐のため嵐州近郊の炳霊寺の石仏群は見逃したが、敦煌の莫高窟、トルファンの千仏洞、高昌古城の仏像群、バーミアンの大磨崖仏、仏像発祥の地と言われるガンダーラ地方のハッダ、タキシラではギリシャ人が初めて彫刻した仏像も沢山見て、思い切って描いてきた。目をつぶると五十何メートルもある石仏や、四、五センチの可愛い仏たちがつぎつぎに瞼の裏に現れ、その仏たちの間を大勢の転所たちが天山々脈の銀百の峰々を見下ろしながら、琵琶を掻き鳴らし、うす紅の天衣を軽やかに翻して胡旋舞を舞っている。みなさんはこれからどちらへおいでになるのですかとお尋ねしたら、ほほえみながら口々に東方のあおによし奈良の都へ行くところです。私がやまと男の子とも知らず、砂漠を放浪する貧乏画家とでも思ったのか、一緒に参りましょうと誘ってくれた。いうなればシルクロードはまた「ブッダ(仏陀)ロード」でもあったわけだ。
再び訪れることもなかろう日干煉瓦を積み重ねた丸い屋根のバザールも、目が覚めるような青、緑、紫の胸片を張り付けたモスクも、茶褐色の砂漠の中に見た町も、小さな集落も、みんな蜃気楼のように美しく、懐かしい、若き日の思い出になってしまった。
拙ないこの旅行記を出版するについて、学友の大越一郎、田村貞次郎の両君が熱烈な声援と、貴重なアドバイスをしてくれた。
画友の皆川政明さんは懇意にしている東峰書房へ連れて行ってくれた。たまたま社長の高橋衛さんは同郷(新潟)の出身で、皆川さんの紹介ということで私の乏しい予算を最大限に活用して、予想以上の立派な本を作って下さった。
御協力下さった各位に、心から厚く御礼を申し上げたい。

平成九年一月三十日
第七十七回誕生日の朝

鎧湖堂 湯川十四士

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