ピンク色の北方四島

翌日は五時半に目が覚めた。同室のY氏がとても良く眠っているので、静かにベットを下り、音がしないようにバッグから画材を取り出すと、バルコニーに出てスケッチを始めた。白俸の林、壁に白ペンキを塗り、グリーンのドアーを取り付けた平家、屋根はオレンジ色で、大きいベイチカの煙突、配色は満点だがなかなか描けない。その上、僕の腕では朝のムードが表現出来ない。六月半ばというのに、パジャマにガウンだけではだんだん体が冷えてくる。シベリアはやっぱり寒い。
九時、ロビーに集合し、パスに乗って郷土博物館へ行く。案内書にはシェフチェンコ通りとなっているが、ようやく新芽をふき出した林の中で人家は一軒もない。大きい大砲が一門置いてあった。もちろん戦利品であろう。日本の大砲ではないらしい、よかったと思う。ドイツ、フィンランド、それともトルコか。
われわれより先に、小学生が五、六十人、若い女の先生(余計なことだが美人ではなかった)に引率されて来ていた。とてもおとなしく先生の話を聞いている。みんな良い顔立ちで、きれいな服装をしている。水筒や弁当を持っていないので、遠くから来た生徒ではないらしい。
カメラやバッグを受付に預け第二室に入る。「これはシベリアを開拓したコサック隊長ハバロフの肖像です」とガイド氏、軍服、サーベル、馬具、日誌等が並べてある。第二、三室はシベリアの人と自然と棲息している動横物、それに発掘品がある。スラブ、モンゴール、中園、朝鮮の民族衣装に混じってアイヌの衣装があった。今でもアイヌが住んでいるのかどうか、聞きもらしたのは残念。海牛の肋骨、これは大きかった。直径が二メートルもある。クジラと同じ晴乳動物で、ベーリング海峡で発見され、世界に五つしかない珍しいものだという。狐、狸、狼、白熊等と一緒にあった剥製の動物、ガイド氏はそれを鹿だと説明したが、どうもおかしい。なる程、顔や姿は鹿に似ているが、角は鹿ではない。絵本やクリスマスの飾りに見るトナカイの角である。ところがわれわれの一行中、トナカイを見た者はいなかった。それでもわれわれは「トナカイである」と主張した。
四室、ガイド氏はサッサと素通りして第五室に入り、千九百十七年……。」とやり出した。僕とO氏はソ連のことだから何かあると予感し、グループより遅れたが一点一点ゆっくりと見て回った。まず日本海海戦の時の艦隊の航行図。露軍の戦死者を並べた前に着剣した日本軍将兵の大きな写真、血の付いた遺品の数々、O氏は、あの若い女の先生は子供達にどんな説明をしているのだろうか。聞きたいものだと小さい声で言った。
大きい世界地図が貼つであった。ソ連領はピンク、ソ連以外はすべて白地にしてある。そこには、われわれが日本固有の領土であるというクナシリ、エトロフ、ハボマイ、シコタンいわゆる北方四島は、はっきりとピンクにしてある。僕は一瞬、ソ連の南下政策、領土拡張政策をまざまざと見せつけられた思いがした。それでも念のため持参したガイドブックを見ると、見聞きに載っている世界地図には日本は赤、ソ連はグリーンに色分けしてあって問題の四島は白地になっていた。一体これはどうしたことだろうか。国会では満場一致して日本の固有の領土であると決議しているはずである。ソ連は第二次大戦の末期、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して宣戦を布告する理由があったのだろうか。

侵略であり、強奪である。政府や野党の偉い人や革新団体の諸君は、どうしてかつて沖縄を返せと騒いだあのエネルギーのたとえ百分の一でもこの問題に注ごうとしないのだろうか。そんなことを考えながら、次の室に入ると、大きい戦闘のパノラマを背にして、ガイド氏は「同志レーニンの指導の下に、シベリアの労働者、農民が如何に勇敢に革命戦を戦って勝利を得たか」と熱っぽく語っていた。

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