香港の夜景

八時、山田氏、が来て「出発です」と言う。みんな彼の後ろに続いて歩き出した。長い歩廊の床は浅黄色のゴム張りで、滑らないように小さい星の模様が浮き出ていた。BOACジェット旅客機が、歩廊の突き当たりにドアーを聞いて待っていた。機内は広く、左右の窓側に二列、真中に四列の椅子が設けられ、椅子もアリタリア航空の椅子よりも大きく座り心地が良かった。私と恒子の席は真中の四列の椅子の後部だった。
腰を下ろして、荷物の整理をしていたら、雫が一つ落ちて来て顔に当たった。さほど気にもしないでいると、また一つ落ちて来た。天井を見ると水が染みた跡がある。これはまずい。そう思って山田氏にいうと、彼はスチュワーデスを呼んで来て座席の変更を交渉してくれた。お陰でまた窓際の空いている席に座ることができた。この飛行機にはスチュワーデスが四人乗っており、みんな背が高くスラリとして健康的で、しかも美人揃いである。ブルーの制服に白い縁取りのある黄色いネッカチーフを首に巻き、後で結んで端を垂らしていた。キビキビした動作も、見ていて実に気持ちがいい。
飛行機が滑走を始めると、日本の電気会社の大きいネオンの看板が見えた。その隣にどう読むのか、戦前の読み方で右から「百好酒梅」とある。中国の銘酒か料亭の看板であろう。
日本の時計会社のネオンが見え出したところで離陸した。ネオンの光で紫色に見える山の中腹から海峡にかけて、ホテルやビルの灯、大通りとおぼしき一際輝いている街のネオン、宝石をちりばめたような「香港の夜景」が眼下に広がった。また日本の電気会社の大きなネオンが見えた。ヨーロッパからの帰り、香港まで来ると、日本商社の大きなネオンの看板が立ち並んでいるので、神戸か横浜の上空を飛んでいるような錯覚を起こしたと話していた画友の言葉が思い出された。
熱海や伊東の夜景に比べると数倍も広く、なぜかネオンもしっとりとしていてけばけばしきがなく、清潔に感じた。
山田氏が回って来て、アルコール以外は何でも無料ですから遠慮をしないで注文して下さいと言つた。有り難い話だ。私は黒田清輝(明治の画家)が描いた窓辺に読書する女性のような小肥りのスチュワーデスに水を注文した。スチュワーデスは私がウォーターと言い直したのを聞いて納得し、氷片を入れたコップに水を持って来てくれた。水を飲んでいると山田氏がまた来て、香港より更に一時間の時差になりましたので九時二十五分を八時二十五分に直して下さいという。僕が時計の針を逆転させていると夕食が出た。水色のプラスチックのお膳に、ビフテキにご飯が盛り合わせられたのが一皿、パンに煎餅を二枚添えたものが一皿、肉とサラダの盛り合わせが一皿、ゼリーにさくらんぼをのせたデザートに、角砂糖二個にコーヒーである。ビフテキはとてもおいしかった。日頃肉類をあまり食べない私も、そのうまさに二切れのビフテキを一気に平らげてしまった。
外は真暗闇である。星一つ見えない。やがて、南北の戦乱が続くベトナムの上空を飛ぶはずだ。私は旅行案内書と日程表を出して見た。

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